小耳に挟んだ話
小耳に挟んだ話





  「半年程前ですかね、とても私怒っておりまして、
近年にないものすごい怒りでして、1人怒りを向け
る相手がいまして、もうその人のしてることとか、
言われてることとかあまりにも理不尽で、もうカッ
カカッカ、イライラしまして、どうしようも自分ででき
なくて、色んな人に相談もしましたし、周りの人も
何も落ちどはないよって言ってくれて、そうだ私に
落ちどは何もないのになんでこんな目にあうんだ
ろう、みたいな。                    .

 仕事関係の人だったので、もう1回だけその人に
会わなくてはいけなくて、きっとこれで生涯この人に
会うのも最後だし、わかってもらう為にどんな嫌みを
いったらいいだろう・・・とか、一生懸命考えて、ただ
どうしたらいいか、気持ちが行ったり来たりしていて、
それで出掛ける前に、富山の一番親しくしてる田舎
の友達に電話をかけて、どう思う?って同業者でも
ないですし、違う意見を言ってくれるかなあと思って
彼女に聞いたら、それはひどすぎるから、はっきり
言ってやった方がいいってその子もすごく怒ってて、
この話は人に話すとみんなを怒らせてしまうんだ、
つまりやっぱり自分に落ちどは無い!って思って。

 だから今日最後に一言だけ、心にギーンと響く何
かを言ってやれってつもりで、考えてたんですけど、
そんな風に友達に怒りをぶちまけてる最中に、ピン
ポーンとインターホンがなりまして、出たら郵便局の
方で、郵便物を受けとって、戻ってきて友達また喋り
直して、また怒ったりなんかしてるときに、またピン
ポーンとなったんです。                .

 そしたら今度は知らない初老の女性が立ってて、
「私は皆さんに様々なお言葉をお届けしてるもの
です。私の書いた言葉を受けとって頂けないです
か?」って言われて。こんなときに何あなた!みた
いな、ちょっと驚きまして、きつめに断ったところ、
「紙に書いてありますからポストに入れて行ってい
いですか?」と仰ったので、いいですって言って、
それでまた戻ってきて電話で「今変な人がきた〜」
って言ってて。まあ、とにかく今日はビシっと言って、
帰ってくるわ〜って言って、玄関に出て靴を履いて
立ち上がろうとした時に、一応ポストを空けたんで
すね。そしたら、ビニールにコーティングしてある綺
麗な紙が1枚入ってまして、こんなことが書かれて
ました。                         .

『温和な答えは激しい怒りを遠ざけ、痛みを生じさ
せる言葉は怒りを引き起こす。温和に返答するには、
自制が必要ですが、そうした方法はしばしば問題を
和らげ、平和な関係を促進します。』         .

 これを読んだ時にわたし大笑いしちゃいまして、あ
まりにも今まで自分がガーっと怒ってる時に、全然
知らない所からこの紙が降ってきたわけですよね。
あまりにタイムリーなのに笑っちゃいまして、笑っ
たらすごく固まってたものが柔らかくなってきて、
さっきから自分に落ち度はない落ち度はないって
言って怒ってたんだよなあて思って、でもその人と
の争いごとで自分に落ち度が無いってゆって、そ
れを相手にぶつけるのってどうなんだろう、初めて
そこで反省というか、私もおかしいなっていう風に
正気に戻ったというか、それでこの言葉をもう一回
読み直して手帳に挟んでその日は出掛けて、相手
の前でもおかげさまでニコニコ笑ってすごすことが
できて、あの日からずっとその見ず知らずの女性
の方が入れてくださったこの1枚の紙を手帳に挟
んでるんですね。                   .

 それでイラっとするとこれを見るようにしてるんで
すけど、この1枚の言葉は私にとって、誰に喋って
も全然正気に戻れなかったのを、普段の私の気持
ちに戻してくれる大切な1枚。 なんか不思議だなー
って思いますね。でも、もしかしたらこういう事って見
落としてるけど、自分たちの周りには解決の鍵って
いうのは本当はその辺にコロっと転がってるものな
のかもしれないって思いました。」           .


<室井滋さんのBEAUTIFUL STORY>


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